2019年07月10日

交響曲「ジェノヴァへ捧ぐ」

交響曲「ジェノヴァへ捧ぐ」
Alla Città di Genova, Sinfonia in 4 tempi(1905)
ウーゴ・ボッタキアリ 作曲 石村隆行 校訂
Ugo Bottacchiari( 1879.3.1Castelraimondo〜1944.3.17 Como)/ Revis. Takayuki Ishimura

 作曲者はマチェラータのカステルライモンドに生まれ、同地の工業高校で数学と測地法を学んだが馴染まず、幼少より好んでいた音楽に傾倒していった。そしてピエトロ・マスカーニ(歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」で著名)の指導下にあるペザロのロッシーニ音学院に入学し、厳格な教育を受けた。師マスカーニからは直々に和声とフーガを学んだという。1899年にはまだ学生であったが、歌劇「影」を作曲し、マチェラータのラウロ・ロッシ劇場で上演、成功を収めオペラ作曲家としてのスタートを切った。卒業後はルッカの吹奏楽団の指揮者や、バチーニ音学院で教鞭をとるなどしつつ、管弦楽曲、歌劇、室内楽曲、声楽曲、マンドリン合奏曲など数多くの傑作を表し、諸所の作曲コンクールで入賞した。
 マンドリン合奏のための作品としては本曲の他、1910年のIl Plettroの第3回作曲コンクールで第1位を受賞したロマン的幻想曲「誓い」や「交響的前奏曲」、1941年にシエナで開催されたコンクールで第1位を受賞した瞑想曲「夢の魅惑」などを残し、いずれも斯界の至宝的存在となっている。ボロニアで発行されていたマンドリン誌「Il Concerto」の主宰者になり、1925年にはA. Capellettiのあとを継いで、コモの”Circolo Mandolinistico Flora”の指揮者に就任するなど、作曲以外の面でのマンドリン音楽への貢献も大きいものがある。
 4楽章の交響曲「ジェノヴァへ捧ぐ」は1905年告示のU.M.L.の作曲コンクールのA部門で第1位の文部省大銀牌を受賞した。題名はコンクールの開催地であるジェノヴァ市に因んだものと考えられる。本曲の存在は早くから知られていたが、第4楽章を除き未出版だったこともあり、長年行方がわからなかった。石村隆行氏の熱心な調査により、本曲の楽譜がイタリアで発見されて本邦にもたらされた。石村隆行氏によって補筆された楽譜は1994年にALBUM PHILODOLINOに掲載されたが、本日用いる楽譜は低音部の補筆に改訂が加えられた版である。
 楽曲は下記の4つの楽章からなる。
I. Largo Patetico, ト長調, 4/4
 やや自由なソナタ形式である。第1主題と第2主題が共通の部分動機を持ち楽想が対比的でなく、再現部で第2主題が再現されずに形式的な再現で置き換えられていることが特徴的で、これらが本楽章がソナタ形式であることをわかりづらくしている。第2主題はドリア旋法のモードによって第1主題と対比されるとともに、低音に全体共通のテーマとなる順次下降進行を有している。
II. Allegro non troppo, イ短調, 2/4
 コーダを伴う三部形式による。模倣を多く用いた対位法的な楽章であり、古典の交響曲で言えばスケルツォに相当する。第2楽章のみバスの順次下降進行を明示的には持たないが、主題が下降順次進行を含むことと、第1楽章の最後に第2楽章で多く用いられる「相互の模倣」を用い、第2楽章と第3楽章の主題をいずれも8分音符の弱起を有するものとすることなどで他の楽章との関連を持たせている。
III. Andantino mosso, ト長調, 2/4
 自由なロンド形式による緩徐楽章である。主題、第1エピソード、主題、第2エピソード、主題の展開、下属調による主題の再現、コーダからなる。楽章の主調がト長調であるにも関わらず主題の最後の再現が下属調のハ長調であるのは、曲全体のト長調→ハ長調の流れを暗示するものである。主題とエピソードを全て8分音符の弱起を有するものとして統一感が作られている。
IV. Allegro con brio, ハ長調, 2/4
 ロンド形式によるフィナーレで、第2エピソードの予告となる序奏、主題、第1エピソード、主題、第2エピソード、主題、コーダからなる。主題は模倣を多く用いた対位法的なもので、各エピソードでは対旋律として主題の動機が現れる。第2エピソードでは低音に順次下降進行が現れる。スコアにはこの楽章に≪Scherzo≫と書かれている。
 本曲は交響曲らしく、ソナタ形式、スケルツォ風楽章、緩徐楽章、ロンドフィナーレに相当する4つの楽章でソナタ構造を形成している。開始楽章と終楽章の調が異なることは(同時代のマンドリン曲にはよく見られる)特徴的な点である。また特徴的なこととして、第1楽章のテンポは古典のソナタと異なり緩徐である。この点はコンクールの審査においても俎上に挙がったようであるが、ベートーヴェンの幻想曲風ピアノソナタを古典作品の例に挙げて問題なきものとされたらしい。この第1楽章は教会旋法を用いて、楽想ではなくモードによって主題の特徴づけがなされる手法を用いており、後年の傑作である「夢の魅惑」につながるものである。第1楽章と第3楽章はボッタキアリらしいロマンティックで緩徐な楽章である。これらには同時期の歌劇「祖国のために」(セヴェロ・トレッリとして出版)と共通の素材が用いられている。一方第2楽章と第3楽章は音楽語法としては古典的で、比較的シンプルな対位法による表現が中心となっており、作者の他の作品とは趣が異なる。第4楽章は後年単独出版されており、≪Scherzo≫と記されている。第2楽章を除く全ての楽章にバスの順次下降進行が共通テーマとして現れ、全体を統一している。

解説:清田和明
参考文献:オザキ企画「Ugo Bottacchiari 集(1)」松本譲 編、アルバムフィロドリーノ第8 巻 石村隆行 編
posted by コンコルディア at 13:01| Comment(0) | 47th定演曲目解説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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