2019年07月10日

マンドリン讃歌「フローラ」

マンドリン讃歌「フローラ」
Inno Mandolinistico “Flora” op.107(1906/1926)
アルリーゴ・カッペルレッティ 作曲
Arrigo Cappelletti(1877.11.16 Como〜1946.10.16 Como)


 作者はイタリアのコモに生まれ、同地に逝いた斯界の至宝的作曲家の一人。同地の音学院でポッツォーロ教授よりピアノ、オルガン、対位法といった基礎を学び、ボローニャのフィラルモニカではピアノと作曲法、吹奏楽を、ミラノのヴェルディ音楽院ではオルガン、合唱といった課程で次々とディプロマを獲得した。経歴からも推測できるように多様なジャンルに作品があるが、特にオルガン作品を得意とし、コモのフェデーレ教会のオルガニストにもなり、各地のオルガン曲コンクールでも度々入賞したという。また宗教音楽のジャンルにも優れた作品を残しており、殊に対位法を駆使したその作曲技法には自信を持っていたと思われる。また、生地コモの山々をこよなく愛し、かなり距離のあるミラノのスカラ座まで歩いて通ったという。斯界では同地の伝統あるマンドリン合奏団である”CircoloMandolinistico Flora(” 現“Orchestra Plettro Flora”)の指揮者として活躍し、U.ボッタキアリも同団のタクトをとった事から親交が厚かったという。(この伝統ある合奏団はそののち、かのU.ゼッピに引き継がれ繁栄した)
 本曲は1906年のIl Plettroの第1回作曲コンクールの「マンドリン讃歌」の部門に応募され、第2位の銀牌を受賞した(同じ銀牌の受賞作として、E.Redeghieriの「センピオーネのトンネル」がある)。曲名の”Flora”はCircolo Mandolinistico Floraから取られたものと考えられる。本曲の楽譜はその後1907年11月にIl Plettroから出版されており、1927年5月にはCircolo Mandolinistico Floraの35周年を記念して再出版されている。その際にはMandoloncelloおよびMandolone(またはC. Basso)については問い合わせるようにとの記載があり、出版されたスコアは4部合奏であるがより大規模な編成の楽譜が存在したことが示唆されている。
 今回用いる楽譜は1926年と記載があるものである。1974年の岡村光玉氏の調査ではCircolo Mandolinistico Floraは戦災で楽譜を焼失し古いものは残っていないということであったが、2010年に出版された本”Arrigo Cappellett i / musicista comasco1877-1946” にはCircolo Mandolinistico Flora保有の楽譜リストが記載されていた。その中には「マンドリンオーケストラのための組曲」や「カンツォーネ・セレナータ」といった本邦で知られていない曲が含まれており、石村隆行氏は在イタリアのマンドリニスト西山みき氏を通じてそれらの楽譜の複写を譲り受けた。それらに伴い、本曲の1926年版も本邦にもたらされた(この楽譜の表紙は前述の本に写真が掲載されている)。この1926年版は非常に大編成で書かれており、Quartino、Mandolini 1 AB、Mandolini 2 AB、Mandole Contranti、Mandole Tenori AB、Mandoloncelli、Chitarre、Contrabassoからなっている(Timpaniについては石村氏の筆致で「di E. Giudici」との記載があり、Eugenio Giudiciの筆によるものを記入したものらしい)。
 本曲は1906年3月に告示されたコンクールへの応募作品として作曲された(応募期限は6月)が、ピアノ版であるInno Marcia op.107は楽譜の末尾に9/3-906(1906年3月9日の意と考えられる)との記載があり、ピアノ版が先に作曲されてそれを編曲する形で本曲が作曲されたものと考えられている。Inno Marciaから本曲を作成するにあたり、一部音が省略されている部分もある一方で、Marziale部分の対旋律のように追加された部分もある。1926年版は4部合奏版から単純にパートを足したものではなく、全体的にオーケストレーションが見直されている。
 曲はA-B-A’-C-A-Codaの小ロンド形式である。主題Aはさらにa-b-c-dの4つの部分からなるが、中間の再現A’ではb-dが奏され、低音に8分音符の動きが加えられて一層力強く歌い上げられる。主題自体が小エピソードとなるcを内包するため、第1エピソードBの扱いは軽く感じられるが、コーダは第1エピソードのモチーフを用いることで充足している。Marziale(行進曲風に)と記された第2エピソードCは下属調のハ長調で書かれており、安定した中間部を形成している。このエピソードは作者のお気に入りの素材であったようで、「マンドリンオーケストラのための組曲」の終楽章にも用いられている。随所に作者の得意とする対位法が用いられ、快活な中にもシリアスさを感じさせる音楽となっている。

解説:清田和明
参考文献:南谷博一「マンドリン辞典」、同志社大学マンドリンクラブ第132 回パンフレット、Arrigo Cappelletti, musicista comasco 1877-1946,NODO libri 刊、中野二郎著「いる・ぷれっとろ」http://vinaccia.jp/nj-collect/
posted by コンコルディア at 12:53| Comment(0) | 47th定演曲目解説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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