2019年07月10日

1900年代初頭の作曲コンクールについて(清田和明)

 マンドリンオーケストラという演奏形態の歴史はそれほど古くない。近代のマンドリンの興隆は、19世紀にヴィナッチャがナポリ型マンドリンに改良を加えてスチール絃を用いたものとした楽器面での近代化に加えて、マルゲリータ王妃がマンドリンを愛好して活動を保護したことに始まるイタリアでの流行があってのものである。マンドリン族による合奏もこの流れに伴い徐々に完成したもので、初めはミラノ型マンドリンなども含む合奏であったのが、ナポリ型マンドリンとその低音楽器、およびギターを用いた合奏の形態に収斂していった。1900年ごろまでにはマンドリン2部、マンドラ、ギターという4部合奏の形態が確立されていた。マンドロンチェロやマンドローネといったより低音の楽器を充実させた編成が一般的になるにはさらに時間がかかったと考えられる。当初は4部合奏と四重奏の区別も曖昧であったが、合奏の規模は拡大していき、Orchestra a plettro(プレクトラムのオーケストラ)と呼ばれるようになっていった。
 合奏形態の発展に伴って、マンドリン合奏のための楽曲の必要性も高まった。マンドリン合奏のための楽曲は比較的単純な曲が多かったが、1900年代に入ると充実した内容の作品が作曲されるようになった。1902年のIl Mandolino誌における第6回作曲コンクールではC.A.Braccoの交響的小品「マンドリンの群れ」やH.Lavitranoの小序曲「ローラ」など、ロマン派風の自由に昇華した形ではあるがソナタ形式の作品が受賞曲に現れている。
 このような背景の中、より芸術性の高い作品を求める作曲コンクールが開催されていった。今回のプログラムで取り上げる作品はこの時代のコンクールの受賞作である。
 1905年ジェノヴァのCamillo Sivori音楽院の提唱によりリグリア教師協会(Unione Magistrale Ligure)が国際作曲コンクールの開催を決定した。7月にはジェノヴァでArte Mandolinistica誌が創刊され、その創刊号にはコンクールの開催告知が掲載されている。そのコンクールのA部門の応募規定はマンドリン四重奏のための交響曲であり、そこで交響曲「ジェノヴァへ捧ぐ」が第1位、交響曲「マンドリン芸術」が第2位を受賞した。
 一方、1906年3月にはミラノでIl Plettro誌が創刊され、その創刊号で国際作曲コンクールが告示された。このコンクールの第1項はマンドリン讃歌、第2項はボレロ、前奏曲、間奏曲、セレナータの部門で、ここでマンドリン讃歌「プレクトラム」やマンドリン讃歌「フローラ」などが入賞している。
 Il Plettroの作曲コンクールはイタリアのマンドリン音楽のために非常に大きい貢献をするもので、これ以降、第2回(1909)ではA.Amadeiの「船乗りの組曲」、第3回(1910)ではS.Falboの「田園組曲」、U.Bottacchiariの詩的幻想曲「誓い」やL.Mellana-Vogtの序曲「過去への尊敬」、第4回(1911)ではS.Falboの「序曲ニ短調」やA.Cappellettiの「劇的序曲」などの錚々たる曲を生み出すこととなる。
特に第3回および第4回は楽曲の芸術性の面でも編成の面でも完成度が高まり、イタリアマンドリン音楽作品の完成期を作ったと言える。第1回のコンクールはそれに比べると素朴な楽曲が並んでいるが、後年の重要なコンクールの原点という意味で記憶する価値のあるものである。
 Il Plettroの第1回コンクールに比べて、Sivori音楽院のコンクールの受賞作は編成こそ初期型の4部合奏であるものの、絶対音楽としての完成度が高く、この時期のマンドリンのための作品としては例外的な存在となっている。イタリアのマンドリン合奏のための曲でソナタ構造(複数楽章によるソナタ)を取るのはこの2曲の交響曲に後年のS.Falboの「田園組曲」を含めて3曲のみであり、希少性が高い。これらはいずれも第1楽章と終楽章の調が異なり、ハ長調およびト長調で構成されているという共通点があり、作曲年代からみて後に位置する「田園組曲」では先行するSivori音楽院の作曲コンクールの受賞作からの影響があると考えられる。
 今回取り上げる楽曲は、後年のドイツのマンドリン合奏の初期の作品にも大きい影響を与えたと考えられる。1923年ごろに作曲されたK.WölkiのSinfonie in einem satz in e-mol(l 単楽章の交響曲ホ短調)では、第1主題に「マンドリン芸術」の第1楽章第1主題のリズムモチーフ(これはさらにさかのぼると「マンドリンの群れ」でも用いられたものである)が、第2主題に「プレクトラム」のモチーフが用いられている。さらに第2主題が第1主題よりも先に提示されるソナタ形式は「マンドリン芸術」の第1楽章に見られるマネンテの書法に通じるものであり、これらの作品からの影響が強く見られている。このように同時代の作品を合わせて見ることにより後年への影響が判然とするのは興味深い。
 「プレクトラム」と「フローラ」はいずれもト長調の小ロンド形式で、中間の主題再現では低音に8分音符の動きが足されるなどの共通点がある。「ジェノヴァへ捧ぐ」と「マンドリン芸術」では、前者がバスの下降順次進行を楽曲全体の主題として有しているのに対して後者はソプラノの上昇順次進行を楽曲全体の主題として有している。また、前者がト長調に始まりハ長調で終わるのに対して後者はハ長調に始まりト長調に終わる。このように、「ジェノヴァへ捧ぐ」と「マンドリン芸術」はあたかも鏡に映したように対称的な作品となっている。今回の演奏会ではこれらのコンクールの受賞作を合わせて演奏するということで、同時受賞作間の対比もお楽しみいただきたい。
posted by コンコルディア at 12:26| Comment(0) | 47th定演曲目解説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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