2018年07月08日

「コンチェルト・ファンタジー」 ピアノとロシア民族楽器オーケストラの為の

ピアノとロシア民族楽器オーケストラの為の「コンチェルト・ファンタジー」
КОНЦЕРТ - ФАНТАЗИЯ
ДЛЯ ФОРТЕПИАНО И ОРКЕСТРА
РУССКИХ НАРОДНЫХ ИНСТРУМЕНТОВ (1955)
ボリス・アレクサンドロヴィッチ・アレクサンドロフ 作曲 歸山 榮治 編曲
Бори́с Алекса́ндрович Алекса́ндров(Boris Alexandrovich Alexandrov)
(1905.8.4 Бологое ~1994.6.17 Москва ) / Rid. Eiji Kaeriyama

 ボリス・アレクサンドロヴィッチ・アレクサンドロフはソビエト・ロシアの作曲家、合唱指揮者。スターリン賞(1950年)、ソ連人民芸術家(1958年)、社会主義労働者英雄(1975)、レーニン賞(1978年)など数多くの叙勲を得ている。1905年に今のトビリシの近くであるボロゴエで、父はソビエト人民芸術家、母は聖歌隊の隊長という音楽一家に生まれ(ちなみに弟二人も作曲家である)、幼少よりツヴァル音楽学校で学び、7歳の時には父アレクサンデル・ワシーリエヴィチの聖歌隊に入隊、13歳でビオラを学ぶ傍ら、ボリショイ劇場ではF.シャリアピン独唱下の合唱を勤めた。1923年にはモスクワ音楽院に入学、ラインホルト・グリエールに作曲とピアノを学び、1928年には最初のオペラ「マリノフカの結婚」を作曲している。その後1929年にはソビエト赤軍の中央劇場の音楽部門の責任者となり、1933年にはモスクワ音楽院の教授に就任と父の足跡をなぞるように、若くして華々しいキャリアを歩んだ。また1937年からは父が創設したアレクサンドロフ・アンサンブル(西側では赤軍合唱団と称するがオーケストラや舞踏団も含まれている)の副芸術監督としてその発展に大きな功績を残した。特に第二次大戦中は父と共に1500回もの演奏会を通じてロシア民族音楽やソビエト生まれの作曲家の歌曲等で国威を発揚し、スターリンの称賛を得た。1946年父が亡くなった後はアンサンブルの監督として活躍、第二次大戦後はフランスを皮切りに次々とヨーロッパ各国を楽旅しつつ、同時に多くのソリストを育成、ロシア民族音楽の発展に寄与したが、その音楽の中心には常に愛国心に溢れる合唱団の存在があった。1994年に楽界から引退すると程なくして息を引き取り、父の隣で眠りについているが、アレクサンドロフ家の名を持つアンサンブルは現在もA. V. Alexandrov Academic Song and Dance Ensemble of the Russian Armyの名で活躍中である。
作品は交響曲、室内楽曲、器楽曲、劇音楽など多岐にわたっているが、軍事的な作品が主立っているせいか、純音楽的な作品は本作以外を耳する事は現時点では困難である。本作は1955年に作曲されたピアノとロシア民族楽器オーケストラの協奏的な作品であるが所謂協奏曲とは趣を異にしている。曲は大きく3つの部分から成るが、最初のエピソードはピアノの雄大なカデンツァ風な独奏で開始される。そのままオーケストラが最初のエピソードをなぞると続いて第2のエピソードに切れ目なく突入する。第2のエピソードはいわばスケルツォにあたるような短いパッセージをピアノとオーケストラで交換しながらの軽妙な掛け合い。続いてピアノのカデンツァを挟んで3つめのエピソードへの橋渡しとなる哀愁を帯びた旋律が開始され、そのまま3つめのエピソードに突入する。この3つめのエピソードはロシア民謡「門の前で」("У ворот, ворот(ウ・ヴァロート、ヴァロート)"。
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チャイコフスキーの序曲「1812年」の中間部に出てくる旋律で耳にされた事のある方も多いだろう。いつ頃作られた民謡なのかははっきりしないが、曲の原型と思わしき旋律は同じくチャイコフスキーがピアノ連弾用に編んだ「50のロシア民謡」の第48曲で聴く事が出来る。(この民謡の歌詞は非常に不可思議なもので、「門の前で、父の門の前で、ああ楽しいドナウ、男たちは遊んでいる、若い奴は出来ないね、うん出来ない」という非常に短い歌詞をどんどん歌い次ぐものである。ロシアは古くはオスマン帝国のコサックの内政自治権に端を発する通りドナウ川が黒海に河口を開く地域の領有権争いを繰り返した経緯がある為、古民謡にはドナウ川が描かれているものが散見されるようだ。)
この3つめのエピソードは激しい高揚を見せて高ぶる感情のまま、第1のエピソードの帰還を迎える。ここでは冒頭非常にシンプルに演奏された第1のエピソードをピアノが壮大に支えてオーケストラの全強奏で再現される様が圧巻である。そして曲は勢いを増したまま力強く終結する。
本作は作曲者指揮、ラザール・ベルマンのピアノという1965年の大変貴重な演奏をyoutubeで聴く事が出来るがこれは金管楽器をも含んだ所謂レッドアーミーならではの特大編成と思われる。ベルマンのピアノは「私は19世紀の人間であり、ヴィルトゥオーソと呼ばれるタイプの演奏家に属している」と自認していたように、芝居がかった演奏、濃厚なロマンティシズムと強靭なタッチといういかにもな演奏である。ぜひご一聴いただきたい。なお本作以外ではアレクサンドロフ自身が指揮台に立ったアレクサンドロフ・アンサンブルの演奏は多数目にする事が出来る。今回の演奏では歸山先生のご好意により1972年にモスクワ社から出版されたオリジナル稿にならいバヤンをアコーディオンで、グースリクラヴィシュナをオートハープとハープで加え、打楽器もオリジナル編成で演奏する。また総譜にはないテンポ表記についても作曲者指揮の演奏に準じて演奏する。


参考文献:
music fantasy
ウィキペディア英語版
作曲者指揮/ラザール・ベルマン(Pf)による演奏
ロシア民謡「門の前で」
posted by コンコルディア at 20:36| Comment(0) | 46th定演曲目解説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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