2018年07月08日

マンドリンオーケストラの為の群炎W

マンドリンオーケストラの為の群炎W (1976)
熊谷 賢一
Kenichi Kumagai(1934.2.16 Yokohama〜2017.10.9 Tokyo).

 作者は1934年に横浜に生まれ、愛知学芸大学卒業後、間宮芳生、助川敏弥の両氏に師事、NHKの委嘱による作曲、指揮活動を開始した。その後、川島博、中川弘一郎の両氏と「三音会」を結成し、各種音楽団体の委嘱による作曲活動をはじめとしてドラマ、映画、舞踊、室内楽、合唱、幅広い活躍を続け、また現代音楽集団、土の会、東海音楽舞踊会議など多くの団体に所属し活発な創作活動を展開してきた。合唱曲の分野では特に多くの作品があり、雑誌「教育音楽」において73年より継続して小中高生の為の合唱曲を多数発表した。90年には朝日新聞社・日本合唱連盟主催による第一回朝日作曲賞で「イタリアの女が教えてくれたこと」が第一位を受賞している。
マンドリン合奏には実験的な音楽から平易なアンサンブル用の作品まで多くの作品を残しており、ボカリーズI〜X、群炎I〜VI、ラプソディーI〜VI、バラードI〜VI、プレリュードI、等がある。作者のマンドリン合奏のための作品は、学生団体の不作法や著作権処理の不備などを理由に1996年から2000年の間演奏凍結がなされていたが、現在ではご遺族が管理するウェブサイトであるクマハウス(http://kumahouse-16.sakura.ne.jp/kenichi_top.html)から、適切な手続きを経て楽譜の購入、演奏許諾が可能となっている。
本曲は1976年7月、第29回青少年音楽祭(福岡市)にて初演された作品。青少年音楽日本連合(Jeunesses Musicales du Japon)はユネスコ傘下のJeunesses_Musicales_Internationalの日本支部である。同年には早くも東海学生マンドリン連盟合同演奏会で再演されている。総譜は当時作者が勤務していた暁学園短期大学の紀要として1977年3月に刊行された。本紀要には作者がマンドリン合奏曲をするようになった経緯や、当時の斯界の状況を俯瞰して作者が捉えていた現況と課題などについて記載されているが、所謂「群炎」についての記述について引用してみたい。

”群炎”は私の造語である。読んで字の如くホノオの群れであるが、この言葉は作曲した音楽の内容や形式には直接関係はなく、ましてホノオの情景描写でないのはもちろんである。”群炎”とは作曲者や演奏者は勿論、聴衆をも含めた全ての人間の「音楽的行為」の中で、現在と未来に生き抜こうとする強い生命力のエネルギーが、あたかも炎の如く燃え上がる”表れ”でありたい。そしてそれらの炎が集まり不毛の原野を焼き尽くし、新しい創造に立ち向かう力となりたい、といった私の創造上に於ける理想として考える理念の抽象化された標題である。
そして、その発想の出発点は、表現上の音楽技術における諸所の困難な問題に眩惑され、人間と音楽との原点的な触れ合いよりも技術中心的な傾向や、それと裏腹で支え合っている音楽上の無思想性や逃避性に対立する点にある。
技術上の問題は決して未来において解決できない問題ではない。だが全ての音楽的行為の中で生命の燃焼のない行為ほど人間存在が希薄で無意味となり、これほど時間の浪費はないのではないだろうか。

こうした作者の思いは作品群の中で群炎が特別の意味を持って作曲され続けた事を物語っている。こうした強い思いとともに、当初平易で演奏しやすいとして始められたボカリーズ、大衆音楽の中から律動性と旋律性を融合させたラプソディ、叙事的なバラードの各シリーズが最終的には「うたごころ」を伴ったエネルギーの結晶として一つの方向性に結集し、「平和への祈り」に結ばれていった事は、作者の生き様を知る者には必然であったのだと考えられる。その最後の到達点が、作者が最も大切にしていた群炎の最終作、群炎X(作曲開始当時の標題は「広島へ」、後に「祈りと希望」に改題)である。
曲は前作である群炎Vの終結部をそのまま引き継いだように打楽器の咆哮で始まる。和声感もそれまでの群炎のかもす揺らぎを彷彿とさせながらうねる。群炎Vの旋律を模倣しながらより荒々しい響きの中から子守歌風な息の長い旋律が現れる。曲はその後緩徐部の旋律が急速に展開し打楽器群の激しい乱舞が聴かれる。やがて曲は再度密度の高い弦合奏で前半部の旋律を大きく歌うがそれは突然断ち切られ、祭り囃子のようなリズムが現れそのまま全強奏で終結部に向かい突き進む。本作にはこれまでの群炎の色合いと共に、前々年に作られたラプソディVの影響が色濃く現れており、後半の祭り囃子の喧騒はラプソディVをそのまま引き継いだかのようである。前述した複数のシリーズの融合は本作が皮切りと考えられるが、一方で同年に作曲されたラプソディWは中間部に中学生日記の音楽を持つなど、ボカリーズとの融合が垣間見えるものとなっている。更に群炎Tから毎年作品を発表してきた作者が一年間の間隔を開けて発表した二つの作品である事(その後は再度毎年作品が発表されていく)、それまでの発表の舞台であった名古屋を離れ、それぞれ福岡と広島で初演された事等も踏まえて見ると、本作とラプソディWはシリアスかつ斬新な響きの前期作品とある意味対極にあるとも言える後期の熊谷作品の分水嶺に立つ作品と見る事が出来る。
コンコルディアは熊谷氏がその音楽人生をかけて産み出してきた「歌」と「祈り」を大切に守り、伝えていきたい。

参考文献:音楽家人名事典 新訂第3版 (日外アソシエーツ, 2001)、マンドリンオーケストラコンコルディア各種パンフレット、第一回宇宙船地球号コンサート「素晴らしい明日のために」パンフレット、クマハウスwebサイト
posted by コンコルディア at 20:28| Comment(0) | 46th定演曲目解説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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