2017年06月06日

序曲「神の御心のままに」

序曲「神の御心のままに」
L’uomo ordisce, la fortuna tesse, Sinfonia, op. 31 (1875)
ジョヴァンニ ボルツォーニ 作曲 石村隆行 編曲
Giovanni Bolzoni (1841.5.15 Parma 〜1919.2.21 Turin) / Rid. Takayuki Ishimura 

 作曲者はイタリアの指揮者、教師、作曲家。パルマの音楽学校にてG. del Mainoにヴァイオリンを、Griffiniに声楽を、G. Rossiに作曲を学んだ。1859年に卒業した後は各地の劇場指揮者、音楽学校の校長などを歴任した。トリノの音楽高等学校では校長および作曲科の教授を務め、器楽科の設置などを行って厳格なオペラ重視の伝統の見直しを行った。作曲家としては数曲のオペラも残しているものの、主要作品は室内楽曲と管弦楽曲であり、オペラ優勢の時代にあって一線を画している。特性的な小品や叙事的な序曲などを好んで作曲し、本日演奏する「神の御心のままに」を含む5つの序曲や弦楽四重奏のためのromanza senza paroleなどが代表作である。
 本曲は京都在住のマンドリニスト・音楽研究家の石村隆行氏による編曲である。主宰・指揮者を務めるESTUDIANTINA PHILODOLINO di KYOTOおよび技術顧問を務める同志社大学マンドリンクラブなどでイタリアロマン派の音楽を中心とした作品を多数編曲して発表しており、その中には本曲の他にもボルツォーニの作品が複数含まれる。
 序曲「神の御心のままに」は5つの序曲の中でも前作となる序曲「サウル王の悲劇」(op.30、1874年作曲)とは作品番号が連続しており、いずれもボルツォーニがF. Morlacchi劇場の指揮者をしていたころに作曲したと考えられる。原曲は吹奏楽に書かれており、1875年にリヴォルノで行われた作曲コンクールで第1位を受賞している。題にある「L’uomo ordisce, la fortuna tesse」とはイタリア語のことわざで、直訳すると「人が縦糸を織り、運命が横糸を織る」となる。布は縦糸の向きに従って織られていくが、形をなすためには横糸が必要なことから、人が目的を達成するためには運命の助けが必要となるということを表している。New Groveの作品リストでは本作は単にSinfonia op.31と挙げられており、この言葉は表題というよりはモットーとしての意味合いが強いかもしれない(明確に叙事的な標題音楽として作曲された「サウル」とは扱いが異なると考えられる)。
 曲はソナタ形式に依り、序奏(主題の一つのように重要に扱われている)、第1主題、第2主題を有する。序奏と第1主題はニ短調で提示され、一方コラールのような開始を持つ第2主題はハ長調で提示される。展開部では主題はあまり形を変えずに現れるが、第1主題が主調を保つのに対して、第2主題はロ長調に移調される。序奏の動機による展開の後、序奏はト短調で再現される。属音保続の後で第1主題がニ短調で、第2主題がニ長調で再現され、最後は序奏の動機を用いたニ長調のコーダで曲が閉じられる。
 本曲は明快なソナタ形式に則っており、同様に2つの主題を有してもソナタ形式とはかけ離れた前作「サウル」とは大きく楽式を異にしている。「サウル」においては主人公であるサウル王は神の加護を失い悲惨な最期を迎える。このため、曲の中心的な主題も確固たる形態を保たずに変化を続ける造りになっており、ソナタ形式の第1主題とはなりえないものであった。一方で本曲の第1主題はソナタ形式の主要主題として明確な形をとっている(展開部の中でも、核となる部分は原型を保って主調で現れる)。これは、「縦糸」となる、人の信念を貫く生き方を示したものと言える。「横糸」となる第2主題はこれもソナタ形式の副主題として、様々な調で(色彩を変えて)現れて、最後には同主調となって第1主題と融和する。つまり、運命は人と対立するのではなくその生き方を助けるものとして描かれている。
 作品番号が連続したこの2つの序曲の対照的な造りからは、作者が本曲に込めた思いを読み取ることができる。本曲にあるのは、まっすぐな人の生きざまを肯定するあたたかさである。「サウル」のような救いようの無い作品を書いてしまったがゆえに、より人間の存在を肯定する作品を書くべきと考えたのかもしれない。単に「神の御心のままに」という言葉を目にしたとき、すぐに想起されるのは「サウル」で描かれたような、神の意志に沿わなければ悲惨な結末を迎えるという世界であろう。しかし本作はそうではない。人が信念をもってまっすぐに生きることこそが天命に沿うものであり、運命はそのような人生の一部となって一つの布を織りなす。

参考文献:The New Grove Dictionary of Music and Musicians, Second Edition, (Grove, 2001)
posted by コンコルディア at 19:59| Comment(0) | 45th定演曲目解説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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