2014年06月14日

マンドリンオーケストラの為の群炎Y「樹の詩」

マンドリンオーケストラの為の群炎Y「樹の詩」(1984)
熊谷 賢一
Kenichi Kumagai(1934.2.16 Yokohama〜)

 作者は1934年に横浜に生まれ、愛知学芸大学卒業後、間宮芳生、助川敏弥の両氏に師事、NHKの委嘱による作曲、指揮活動を開始した。その後、川島博、中川弘一郎の両氏と「三音会」を結成し、各種音楽団体の委嘱による作曲活動をはじめとしてドラマ、映画、舞踊、室内楽、合唱、幅広い活躍を続け、また現代音楽集団、土の会、東海音楽舞踊会議など多くの団体に所属し活発な創作活動を展開してきた。合唱曲の分野では特に多くの作品があり、雑誌「教育音楽」において73年より継続して小中高生の為の合唱曲を多数発表した。90年には朝日新聞社・日本合唱連盟主催による第一回朝日作曲賞で「イタリアの女が教えてくれたこと」が第一位を受賞している。マンドリン合奏には実験的な音楽から平易なアンサンブル用の作品まで多くの作品を残しており、ボカリーズT〜X、群炎I〜VI、ラプソディーI〜VI、バラードI〜VI、プレリュードI、等がある。作者のマンドリン合奏のための作品は、学生団体の不作法や著作権処理の不備などを理由に1996年から2000年の間演奏凍結がなされていたが、氏の作品を初演するなど縁の深いプロムジカマンドリンアンサンブル(広島)の創立者であった高島信人氏の働きかけや斯界からの熱心な要望もあり、現在では作者との適切な手続きを踏まえて演奏が可能となっている。
 本作は1984年、広島のノートルダム清心中学・高校マンドリン部の委嘱で作曲された。現在のところ、群炎X「祈りと希望」と合わせ作者後期の最大作かつ集大成と言ってもいい作品である。この二つの作品はいずれもが「反戦・反核」といった熊谷氏の音楽上のテーマを陰と陽の二つの側面から描いた作品群として興味深いものがある。群炎Xが複雑なハーモニーの中に一筋の光を見いだすシリアスな作品であるのに対し、本作は素直でおおらかな楽想に溢れた抒情性豊かな作品である。
 本作で描かれているのは 「百年は草も生えない」と言われたヒロシマの地に、樹々が再生していく姿に、人と街の復興を重ねた情景である。美しい広島の原風景、街の再生に向けひたむきに繰り返される労働、そして緑が甦る街。ギター合奏やマンドリン属だけの合奏、ソロ奏者によるアンサンブルと響きの質に巧みにバリエーションを付けながら、自然・人々・街が共に共鳴しあいながら現代にいたる再興を遂げていく叙景的な様は群炎の系譜としては異質にも映るが、根底に流れる力強いエネルギーと主題の変容する様はまさに群炎そのものと言えるだろう。冒頭ギター合奏で演奏される本作全体を彩る主題は作者が十数年に渡り積み重ねたマンドリン合奏作品による「歌唱表現」の到達点であろう。
 熊谷作品が描くものは、あるものは「河」だったり「風」だったり、またあるものは「大地」であったりと叙景的に映るが、共通している真のテーマは「人間」であり「人間讃歌」である。そしてその人間が産み出してしまった兵器の廃絶と「平和への祈り」である。これこそが熊谷氏が音楽を書き続けてきた理由であり、すべての「歌」はこの「祈り」に通じている事を忘れてはいけない。
 シリアスかつ斬新な響きの前期作品とある意味対極にあるとも言える後期の熊谷作品。「歌」を紡いで「祈り」続けてきた熊谷作品には、おおらかな心と豊かな感受性に裏付けされた「うたごころ」が脈々と息づいている。コンコルディアは熊谷氏がその音楽人生をかけて産み出してきた「歌」と「祈り」を大切に守り、伝えていきたい。

解説:横澤恒
参考文献:明治学院大学マンドリンクラブ第25回定期演奏会パンフレット
posted by コンコルディア at 20:39| Comment(0) | 過去の定演曲目解説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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