2016年06月07日

マンドリンオーケストラのためのファンタジーII

マンドリンオーケストラのためのファンタジーII
(1981)
小櫻 秀爾 (1938.8.19 Nagoya 〜)

I. Adagio
II. Vivace - Adagio

 作者は名古屋市出身の作曲家。1961年に愛知学芸大学(現在の愛知教育大学)音楽科を卒業後、学校教諭を経て1966年に東京芸術大学作曲科に入学、長谷川良夫に師事した。1970年卒業後、作陽音楽大学講師、名古屋音楽短期大学講師を歴任、1976年以降は名古屋音楽大学に勤め、現在は名誉教授である。
 マンドリンのための作品も多く、マンドリンオーケストラのための作品として躍動、燦など、2つのマンドリン四重奏曲、マンドリンとピアノのための煩悩林、マンドリン独奏のためのトッカータなど様々な編成で作曲を行っている。第2回日本マンドリン合奏曲作曲コンクールにおいてふしぎなマンドリンで佳作入選している。
 本曲は1981年に京都教育大学マンドリンクラブの委嘱作品として作曲され、同クラブの第22回定期演奏会で初演された。2011年にパート譜を含む楽譜が作者によって作成され、その前後に若干の改訂がされている。深淵なAdagioと躍動的なVivaceの魅力により、作者のマンドリン合奏曲の中でも最も人気が高く演奏機会が多いものの一つである。
 2つの楽章からなるが、第2楽章の最後には第1楽章の主題が再現されるため、全体としては三部形式をなしている。緩-急-緩の三部形式で最後の緩を簡素な再現とする構成はバロックのフランス風序曲に通じる楽式観であって、楽想においてもバロックのオマージュと感じられる部分がある。全ての主題は4度の動きを共通して有しており、それが全体の統一感を作り出している。
 第1楽章は三部形式により、冒頭マンドラによって提示される主題とややテンポを速めた中間部からなる。いずれも4度上昇に始まり、模倣を中心としたポリフォニックな扱いで展開される。第2楽章のVivaceはソナタ形式による。変拍子を用いた序奏に始まり、4/4で安定した主題Aが提示される。その後低音で提示されるのが主題Bであり、再度主題Aを挟んで模倣を用いた主題Cが続く。これらはいずれも4度の動きを中心に形成されており関連性が高いが、序奏と主題Bが特に結びつきが強く第2主題群をなしており、一方で主題Aと主題Cが第1主題群であると見ることができる。展開部は3/4で、第2主題を用いた展開である。再現部では序奏、主題A、主題Bが順に再現される。この際、第2主題群である序奏と主題Bは提示と異なる調での再現である。それに続いて第2展開部が配置されており、主題Aを中心にフガートを用いた展開が行われる。その後、主題Cが提示と同じ調で再現され、さらに主題Aが再現される。最後にテンポをAdagioに戻して、第1楽章の主題が再現されて曲が閉じられる。

参考文献:日本の作曲家―近現代音楽人名事典(日外アソシエーツ, 2008)
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抒情的間奏曲

抒情的間奏曲
Intermezzo Lirico (1924)
サルヴァトーレ ファルボ ジャングレコ
Salvatore Falbo Giangreco (1872. 5. 28 Avola ~ 1927. 4. 8 Avola)

 作者はシチリア島のアヴォラに生まれ、同地に没したイタリアの作曲家。Falboが姓であり、Giangrecoは母方の姓を名乗ったものである。パレルモのコンセルヴァトーリオにおいてCasi とStronconeにピアノを、Favaraに対位法とフーガを、Zuelliに作曲法を学んだ。1896年にピアノと作曲法のディプロマを得て、シチリア島のニコーズィアの吹奏楽団の指揮者となり、その後アヴォラの吹奏楽団に指揮者として迎えられた。マンドリン合奏のためには、1910年のIl Plettroの第3回のコンコルソで金牌を受賞したSuite Campestre(田園組曲)、1911年のIl Plettroの第4回コンコルソで第1位を受賞したOuverture in Re minore(序曲ニ短調)、1921年の第5回コンコルソで第1位を受賞したSpagna “Suite”(「組曲」スペイン)、同じく第1位を受賞したQuartetto a Plettro(プレクトラム四重奏曲)などがある。作品数は多くないが、いずれもマンドリンのための重要なレパートリーとして受け入れられている。
 本曲は1924年にIl Plettroの作曲コンコルソで銀牌を受賞し、同年出版された。現編成はマンドリン二部、マンドラ、ギターの四部合奏であるが、本日は低音部の補筆を行って演奏する。
 本曲は2つの主題による二部形式である。ファルボの楽式について考えるときに、ソナタ形式の適用の観点から考察することは興味深い。

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 これらの作品を俯瞰すると、ファルボのソナタ形式の捉え方とその変遷が見て取れる。ソナタ形式は一般に、2つの主題の調性対立とその緩和を軸にした楽式であると定義づけられる。この観点で見た場合、展開部があって再現において両主題が主調に回帰する田園組曲第1楽章は最もソナタ形式らしく、展開部がなく提示と再現の調がほぼ同一であって調性対立に変化がない抒情的間奏曲は最もソナタ形式らしくない。その他の作品はそれらの間にグラデーションのように存在している。上記の表は作品を年代順に並べたものであるが、ソナタ形式の濃淡はほぼその順に沿って移り変わっている様子が見られる。その他の特徴として、主題内部で明確に複数の調を示して、それを調性対立の変容の要素に用いている点が挙げられる。組曲スペイン第1楽章はその代表的なものであるが、それと同様の扱いを抒情的間奏曲にも見ることができる。
 本曲は前述のように2つの主題からなる。第1主題はマンドラによって提示される近代的な響きをもつものである。他方第2主題はマンドリンによって提示され、バロック舞曲であるサラバンドのリズムを用いた古風な印象の主題である。サラバンドのリズムは第1主題の一部分にも用いられ、両主題をつなぐチャネルとなっている。


参考文献:
同志社大学マンドリンクラブ第132回定期演奏会パンフレット付録資料「アレッサンドロ・ヴィッツアーリとイル・プレットロ誌の作曲コンクールについて」
岡村光玉氏によるサルヴァトーレ ファルボとマンドリン音楽(中原誠 発行) http://www.ne.jp/asahi/mandolin/falbo/
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序曲「祖国への愛」

序曲「祖国への愛」
Amor Patrio, ouverture (1913)
フランチェスコ・アモローソ
Francesco Amoroso (1877 Salerno 〜 1916 Napoli)

 作者はイタリアの作曲家、吹奏楽指揮者。13歳でトロンボーン奏者としてナポリの音楽院に入学し、ピアノや作曲も学んだ。卒業後軍楽隊に配属され、駐屯地のボローニャの音楽院で作曲を学んだ。1903年に軍楽長に選出され、各地で指揮者として活躍した。作曲家としては歌劇、管弦楽曲、吹奏楽曲、ピアノ曲、歌曲など多くの分野で作品を残している。マンドリンのためにもピアノまたはギター伴奏のマンドリン独奏曲を中心として作品があり、中でも演奏会用ポロネーズは名作として著名である。
 本曲は石村隆行氏がイタリア留学前に中野二郎氏から「なんとか探し出してほしい」と依頼され、現地で発見した作品である。1913年にジェノヴァのEditoria Musicale Genovese主催の第2回国際作曲コンクールに入賞し、同年Arte Mandolinistica誌から出版された。Arte Mandolinistica主幹のAngelo Cigliaに献呈されている。 
本曲は、外形上は序曲らしい序奏付きの展開部の無いソナタ形式による。しかしながら、序奏と主部の主題の関連性、主題間の動機の共有、形式上の順序と調性設定などから、外形上の形式に反して多義的で重層的な構成を有している。荘厳な序奏、軽快な第1主題、メロディックな第2主題と、器楽合奏曲の魅力をコンパクトな序曲に詰め込んだ名作と言えよう。
 曲はMaestosoの序奏から始まる。序奏は2つの要素からなり、1つ目は3度上-4度上-2度下の音型とリズムを特徴とするもの(以降Aと呼ぶ)、2つ目は2度上-2度下の音型を特徴とするもの(以降B)であって、A-B-A-Bの順に奏される。主部の第1主題はAllegro giustoで、ホ短調で提示される。第1主題前半は序奏のBの要素(伴奏のリズムのみAの要素)、後半は序奏のAの要素を用いている。第2主題はト長調で提示される。前半はModeratoで新たな要素により、後半はPiù mossoで序奏のAの要素を用いている。序奏の一部を再現した後、主題の再現が行われる。第1主題の再現はイ短調で、主調と異なる調での再現であることが特徴である。一方、第2主題の再現はホ長調で、型通り同主調である。第2主題後半が再現される前に第2展開部的な部分があるが、ここでは第1主題の要素たるAとBが同主調であるホ長調で奏され、ソナタ形式の調性上の再現を補強している。第2主題後半の再現の後、要素BとAを用いた結尾句で締めくくられる。


参考文献:
アルバム フィロドリーノ2 (石村隆行)
posted by コンコルディア at 05:29| Comment(0) | 過去の定演曲目解説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする