2013年06月23日

コンコルディア第41回定期演奏会(6/29(土)17時〜)

以下の通り、定期演奏会を開催いたします。
みなさまのご来場をお待ちしております。

マンドリンオーケストラコンコルディア第41回定期演奏会
日 時 2013年6月29日(土) 開場:16:30、開演:17:00(予定)
場 所 かつしかシンフォニーヒルズ・モーツァルトホール
(京成本線「青砥駅」徒歩7分)
入場料 無料(チケットなしでもご入場いただけます)

第1部
ツプフオーケストラのためのソナチネ第1番 Herbert Baumann
マンドリンオーケストラの為のシンフォニエッタNo.4「ラビュリントス」 大栗 裕

第2部
ロシア序曲 Николай Будашкин/ 歸山 榮治 編曲
カルソ風夜曲 Emanuele Mandelli / 松本 譲 編曲
シンフォニエッタニ短調 Umberto Zeppi

第3部
マンドリンオーケストラの為のボカリーズIV「風の歌」 熊谷 賢一
Ouverture Historique No. 7 歸山 榮治 (委嘱初演)

※未就学のお子様のご入場はご遠慮下さい。

41定チラシ3月分表.jpg
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Ouverture Historique No. 7

Ouverture Historique No. 7 (2013)
歸山 榮治 作曲
Eiji Kaeriyama (1943.5.25 Ono〜)

 作者は1943年福井県大野市に生まれ、62年名古屋大学文学部入部と同時にギターマンドリンクラブに入部、一年後指揮者となった。その後中田直宏氏に作曲を学び、クラブ内外で編曲を含め多くの作品を発表してきた。またチルコロ・マンドリニスティコ・ナゴヤをはじめとして、大学・社会人のマンドリン団体を数多く指導しており、現在日本マンドリン連盟中部支部理事、東海音楽舞踊会議運営委員長をつとめる。作品は多岐に渡り、マンドリン合奏曲以外にも吹奏楽曲、邦楽曲、合唱曲、劇音楽、舞踊音楽など多くの作曲、編曲活動に携わっている。 1981年名古屋市芸術奨励賞授賞。マンドリン合奏以外ではギター合奏に継続的な作品が書き下ろされており、現在十数曲を数えている。
 本曲「Ouverture Historique No. 7」はマンドリンオーケストラコンコルディアより作曲を委嘱し、本日が初演となる。Ouverture Historiqueのシリーズは本曲を含めて7曲を数え、三楽章シリーズとともに作者のライフワークと言える。シリーズ最初のOuverture Historiqueは1970年に作曲され、2度の改作を経て1978年にOuverture Historique No. 2となる。その後1980年にNo. 3、1982年にNo. 4、1990年にNo. 5、2001年にNo. 6が作曲されている。原曲の改作であるNo. 2と「反核、日本の音楽家たち」発足を記念して臨時に挿入されたNo. 4を除けば、おおむね10年ごとに作曲が行われており、その時代ごとの世相と作者の音楽観が反映された曲になっている。Ouverture Historiqueはフランス語であるが、直訳すると歴史的序曲となり、実際にそのような名称で呼ばれることもある。しかしOuverture Historiqueの命名にあたっては、音楽上の序曲という単語だけでなくフランス語の”Ouverture”がもともともつ「切り拓くこと」という意味が意識されている。すなわちこのシリーズは常に歴史を振り返るだけではなく未来へ進む視点をもって描かれてきた。
 本曲は、先だって作曲されたギター合奏曲「五つの情景」といくつかの動機を共有している。「五つの情景」は2012年に作者のギター合奏曲を継続的に委嘱、演奏している愛知大学ギターアンサンブル部の第50回定期演奏会を記念して作曲されており、50年を表す5つの楽章にそれぞれクラブの10年ごとを表した曲である。標題性が高い「五つの情景」の作曲に当たっては先の大震災のイメージが重ねられたという。
 本曲は作者の従来の作品と異なり、調性がはっきりしているとともに変拍子や意図的にわかりにくくするような表現が避けられ、素直に楽想が表現されている。曲は緩-急-緩-急-緩-急-緩の7つの部分からなる。梵鐘の音を模した響きから始まるAndante lentoの序奏の後、Allegro moderatoでト短調の第1の主題が提示され、続くModerato – Andanteでは間奏の後、第2の主題が下属調のハ短調で提示される。その次のAllegro moderatoは展開部であり、2つの主題が展開される。その後、慈しみを込めたようなAndanteのエピソードを挟んで、再びAllegroそしてPiù mossoとさらに主題が展開され、最後に充実した響きによるPlus lentoのコーダで曲が閉じられる。
 最初に提示される第1の主題は非常に前進感があり、まっすぐに未来を志向するものである。しかしながら、転調を経て高らかに歌われたこの主題は突如として断絶される。未来への扉は閉ざされてしまったのだ。引き続く第2の主題では、何か一つのことに固執するように一つの主題が短い周期で何度も繰り返される。この部分の構成についてはOuverture Historique No. 2の中間部との類似性を作者が認めている。しかしNo. 2において中間部の主題はその前に苦しみの上で到達した、言わば「切り拓いた結果として得た現在」であったが、ここではそうではない。それはむしろ安寧な過去への回想であり、そこへ安住しようとすることは現実からの逃避となってしまう。曲は拘泥から抜け出すように次の展開部へ進むが、この部分の前半は第2の主題のために割り振られており、第2の主題は展開の後に感動的に主調であるト短調に到達する。第2主題の主調への到達は、ソナタ形式に見られるように2つのテーゼの合一を示唆する。つまり、過去のものであったはずの第2の主題は、ここでは未来へと向かう力の原動力となっている。そこにあるのは、我々は過去を切り捨てなくても未来へと進むことができるという暖かさである。
 本曲にどのような歴史を重ねるかはこの音楽に触れる全ての人にとって全くの自由である。しかし今ふたたびの激動の世界にあって、本曲が未来へ進む人の力になることを願ってやまない。Ouverture Historiqueは今作においても歴史を切り拓く者のための音楽である。


参考文献:帰山栄治普及振興協会編「帰山栄治作品解説集」
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2013年06月22日

マンドリンオーケストラの為のボカリーズIV「風の歌」

マンドリンオーケストラの為のボカリーズIV「風の歌」(1975)
熊谷 賢一
Kenichi Kumagai(1934.2.16 Yokohama〜)

 作者は1934年に横浜に生まれ、愛知学芸大学卒業後、間宮芳生、助川敏弥の両氏に師事、NHKの委嘱による作曲、指揮活動を開始した。その後、川島博、中川弘一郎の両氏と「三音会」を結成し、各種音楽団体の委嘱による作曲活動をはじめとしてドラマ、映画、舞踊、室内楽、合唱、幅広い活躍を続け、また現代音楽集団、土の会、東海音楽舞踊会議など多くの団体に所属し活発な創作活動を展開してきた。作品においては、ロシア民謡などを手本にわかりやすく芸術性の高い音楽が企図されている。合唱曲の分野では特に多くの作品があり、雑誌「教育音楽」において73年より継続して小中高生の為の合唱曲を多数発表した。90年には朝日新聞社・日本合唱連盟主催による第一回朝日作曲賞で「イタリアの女が教えてくれたこと」が第一位を受賞している。
 マンドリン合奏には実験的な音楽から平易なアンサンブル用の作品まで多くの作品を残しており、ボカリーズI〜X、群炎I〜VI、ラプソディーI〜VI、バラードI〜VI、プレリュードI、等がある。作者のマンドリン合奏のための作品は、学生団体の不作法や著作権処理の不備などを理由に1996年から2000年の間演奏凍結がなされていたが、氏の作品を初演するなど縁の深いプロムジカマンドリンアンサンブル(広島)の創立者であった高島信人氏の働きかけや斯界からの熱心な要望もあり、現在では作者との適切な手続きを踏まえて演奏が可能となっている。
 作者のマンドリン合奏曲は、作曲時期によって大きく2つにわけることができる。前期の作品は三部形式などの比較的シンプルな楽式に斬新な音響が表現された器楽的な楽曲である。一方、後期の作品は自作品の合唱曲からの編曲が多く行われ、それを接続曲風につなげた歌謡的な曲として構成されている部分が多い。いずれにおいても音楽性の根幹をなすのは旋律のもつ豊かなうたごころであり、それを多彩なオーケストレーションで彩りながら歌い上げるという点では作風の一貫性が感じられる。
 1975年に発表された本曲は、前期と後期のいずれにも属さずちょうどそれらの分水嶺に位置する作品である。多くの楽想をつなぎ合わせた構成によるが、その楽想は器楽的なものが多い。また最も歌謡性が現れた主題も、それが何度もオーケストレーションとハーモニーを変えながら繰り返される展開はむしろ最初期の群炎Iなどに見られる手法に近い。本曲は前期と後期の作風の変化の間に一瞬だけ存在した絶妙のバランスの上になりたっており、そこには作者のマンドリン合奏曲の魅力の全ての要素を見ることができる。
 また、本曲には標題音楽としての大きい魅力も感じられる。本曲は器楽による歌詞の無い歌(ヴォカリーズ)であると同時に器楽による音楽劇(ミュージカル)であり、楽想が移り変わる構成の中にストーリー性を強く感じさせる。近年のマンドリン曲には「風」を標題とする作品も多いが、それらより以前に書かれた本曲にどのような色の「風」が見られるかお楽しみいただきたい。


参考文献:音楽家人名事典 新訂第3版 (日外アソシエーツ, 2001)、マンドリンオーケストラコンコルディア第32回定期演奏会パンフレット、邦人作曲家・マンドリンオーケストラ作品リスト
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2013年06月21日

シンフォニエッタニ短調

シンフォニエッタニ短調
Sinfonietta in re minore, in un tempo
ウンベルト ゼッピ
Umberto Zeppi (1890.11.9 Como ~ 1978.6.24 Albese)

 作者はイタリアの作曲家・ヴァイオリニストである。マンドリン音楽の作曲者として著名なA. Cappellettiに学び、CappellettiやU. Bottacchiariが指揮を執ったマンドリン合奏団Floraで両者の跡を継いで指揮者になった。作品には歌劇、カンタータ、管弦楽曲などがあり、マンドリン音楽にも複数の作品を残している。
 本曲は始めに単楽章のシンフォニエッタとして管弦楽のために作曲され、後に作曲者自身によってマンドリン合奏のために編曲されたものである(管弦楽版は後に緩徐楽章、メヌエット、フィナーレの3つの楽章が追加され、全4楽章の作品となっている)。1952年にFloraの設立60周年を記念して開催された合奏コンクールでは課題曲に選ばれている。
 曲はロマン派の自由なソナタ形式による。器楽的な楽想と和声進行中心に構成された経過句はややもすると理屈っぽさを感じさせるが、和声の広がりを感じさせる重ね方とロマン派らしいめまぐるしい進行は本曲の魅力である。
 緩徐な序奏に始まった音楽は、テンポを速めて第1主題に入る。主調のニ短調で提示される第1主題は器楽的なパッセージの旋律を有して前進感を感じさせる。一方雄大な第2主題は平行調であるヘ長調で提示される。展開部は第1主題を中心に展開が行われ、最後にはイ音による属音保続部を有している。属音保続部により導かれた再現部では同主調で第2主題が再現される。一旦序奏の楽想が挟まれ、主調にて第1主題が再現される。さらにオーケストレーションを変えて第1主題が歌われた後、再度序奏の楽想を挟んでコーダにて曲が閉じられる。
 再現部において第2主題が先に再現されるソナタ形式という観点で、本曲の楽式はブゥダーシキンの「ロシア序曲」と共通している。しかし本曲では各主題の調設定がかなり古典的に設定されており、ソナタ形式が本来もつ性質がよりはっきりと維持されている。再現部において第2主題が主調に達することによる一体感はソナタ形式の醍醐味であるが、第2主題が先に再現されることによってそれがより強調されているのは本作品におけるひとつの工夫の成果であろう。

参考文献:Album Philodolino 2 (石村隆行編集、1991)
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カルソ風夜曲

カルソ風夜曲(1935)
Notturno Carsico
エマニュエーレ・マンデルリ/松本譲編曲
Emanuele Mandelli(1891.8.27 Morengo(Bergamo)〜1970)

 作者はイタリア北部、ロンバルディア州のベルガモの小都市モレンゴに生まれた、管弦楽作曲家にして指揮者。ミラノの音学院に学び、1920年には再びエミリア・ロマーナ州パルマの音楽学校を卒業した。長くベルガモのドニゼッティ音楽院で教鞭を取り、同地では聖マリア・マジョーレ教会の楽長も務めた。作品については多くは知られているわけでは無いが、劇場作品、管弦楽、ピアノ曲、合唱曲などを残した。管弦楽作品には交響的エピローグ「ミラ・ディ・コドラ」「聖書組曲や組曲「聖フランチェスコの花」がありピアノ作品や合唱曲も多く残されている。斯界へのオリジナル作品には、1931年『Il Plettro』誌に掲載された名作「楽興の時」が本邦でも広く知られている。
 本作品は1935年イタリアのカリッシ社より出版された管弦楽曲である。同年には前述の交響的エピローグ「ミラ・ディ・コドラ」も出版されており、旺盛な創作意欲を伺わせると同時に、同作に通ずる原初的な暗鬱感に満ちたものとなっている。題名にある「カルソ」とはスロベニア西南部からイタリア北東部トリエステにかけての台地を指す地域名称で、同地域に多く見られる石灰岩などの水に溶解しやすい岩石で構成された大地が雨水、地表水、土壌水、地下水などによって侵食(主として溶食)されてできた地形からカルスト地形の語源になっているものである。位置的にはイタリア半島のつけね、ブーツの膝の裏にあたる辺りの地域である。
 冒頭から瞑想的なギターとマンドラの旋律が不安気な和声の中に浮き沈みするが、調性的な安定を得ることが出来ずに、古代と現代の狭間の空間をたゆとうように揺らぎと混沌の中に薄明の光を見る。やがて夜明けと共に、深い鐘の音が響き、すべての旋律は夢の中の出来事であったように消えていく。マンデルリの作品にしばしば見られる、歌い過ぎず、濃密になり過ぎず、紙一重のところで陳腐なロマン派小品に陥らない作風が本作にも伺え、作者の精神性の高さを示していると思われる。

参考文献:コンコルディア第23回、第27回定期演奏会曲目解説、Wikipedia、松本譲氏から譲渡された資料
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ロシア序曲

ロシア序曲
РУССКАЯ УВЕРТЮРА (1945)
ニコライ パヴロヴィッチ ブゥダーシキン 作曲 歸山 榮治 編曲
Николай Павлович Будашкин (Nikolay Pavlovich Budashkin) / Rid. Eiji Kaeriyama
(1910.8.6 Любаховке ~ 1988.1.31 Москве)

 作者は現在のカルーガ州にあるLyubahovkeの村に生まれモスクワで死去したロシアの作曲家。幼少期によりアマチュアのブラスバンドおよびロシア民族楽器オーケストラに親しみ、1929年にモスクワ州立の音楽学校に入学、1937年には作曲課を修了した。1945年から1951年までバラライカ奏者であるOsipovの名を冠する国立民族楽器オーケストラの指導助手を務め、そのオーケストラのために多くの作品を作曲した。1965年からはモスクワ州立芸術文化大学にて教鞭を取った。ロシア幻想曲、ドゥムカ、ロシア狂詩曲などの作品により、2度のスターリン賞を受賞。民族楽器のための音楽の他、映画音楽などに作品を残している。
 ロシアの民族楽器オーケストラはバラライカやドムラなどの撥弦楽器を中心に構成され、トレモロを比較的多く使用する表現方法など、そのサウンドはマンドリン合奏と通じるものがある。マンドリン音楽の発展のためには「大衆性」を有するレパートリーの充実が必要と考えた編曲者の歸山氏は、親しみやすい音楽としてこれらロシア民族楽器オーケストラのレパートリーに着目しその作品をマンドリン合奏に編曲する活動を行った。編曲活動を始めた後に歸山氏はモスクワへ渡航し、病床にあったブダーシキンを訪問した。既に本人との意思疎通は難しかったが、夫人にマンドリン合奏へ編曲した演奏の録音を披露したという。歸山氏によるロシア序曲の編曲には複数の版が存在するが、本日は後年再編曲されたクラリネットや打楽器を含む版を使用する。
 本曲は作者がOsipov記念国立民族楽器オーケストラに関わり始めた1945年ごろの作品であり、民族楽器オーケストラのために精力的に作品を発表する先駆けに位置する作品と考えられる。序曲という形式の中で軽妙さと憂愁の間を揺れ動くロシア音楽らしさが率直に表現されている。
 曲は再現部において第2主題が先に再現される、ロマン派のソナタ形式による。短い序奏の後、ヘ長調の第1主題が提示される。三拍子のこの主題はシンコペーションのリズムが特徴的で、途中に短調への転調を含みつつも軽快で明るい楽想をもっている。それに続く第2主題は拍子も二拍子に変え、嬰ヘ短調で憂いを含んで歌われる。この主題は楽節の中間に第1主題と共通の動機を有しており、2つの主題は完全に独立なものではない。再び主調で第1主題が奏された後には、主題の展開要素が少ない中間部が置かれている。再現においては第2主題が先に再現されるが、この再現は同主調ではなく平行調であるニ短調で行われ、それに先立つ属音保続部もニ短調への属音であるイ音にて行われる。一方第1主題は再現において同主調であるヘ短調に移調され、最後は物悲しく曲が終わる。2つの主題の調性対立とその変容というソナタ形式の楽式観を中心としつつも、再現においてはどちらかの調への集約ではなく互いに近づきあうという点に独自の美意識が見て取れる。

参考文献:Материал из Википедии − свободной энциклопедии(ウィキペディア ロシア語版) http://ru.wikipedia.org/wiki/Будашкин,_Николай_Павлович
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2013年06月20日

マンドリンオーケストラの為のシンフォニエッタNo.4「ラビュリントス」

マンドリンオーケストラの為のシンフォニエッタNo.4「ラビュリントス」
“Rabyrinthos” Suite (1975)
大栗 裕
Hiroshi Ohguri (1918.7.9 Osaka〜1982.4.18 Osaka)

 作者は生涯を関西を中心とした日本音楽界の為に捧げた日本のクラシック音楽史上の大功労者。朝比奈隆に師事し、1941年旧東京交響楽団にホルン奏者として入団したのを皮切りに、多くの楽団に在籍、大阪音大講師に就任した。「浪速のバルトーク」の異名を誇り、日本人の土俗的かつ原始的な感情に根ざした作風でオペラ、管弦楽曲、吹奏楽曲等、多くの分野で作品を残した。1958年に大阪府芸術賞、1991年に日本吹奏楽アカデミー賞を受賞。没後30年に当たる昨年には記念演奏会などが多数催された。マンドリンオーケストラのためにはシンフォニエッタを始めとした純器楽のほか音楽物語、ミュージカルファンタジー等を多数残しており、その総数は約40曲にも及んで作者の作品の中でも多くの割合を占めている。
 コンコルディアでは大栗のマンドリンオーケストラのためのシンフォニエッタを全曲演奏に向けて定期演奏会にて継続的にとりあげており、今回はその3回目に当たる。大栗のシンフォニエッタは7曲(及び編成違いのサブナンバー1曲)が作曲されており、ソナタ形式等を用いた3楽章の形式を雛形としながら作曲者の音楽性が表現されている。今回取り上げるシンフォニエッタ第4番「ラビュリントス」は、1975年に関西学院大学マンドリンクラブ第50回定期演奏会にて初演された。スコアにはアルファベット表記による題名として“Rabyrinthos” Suite と書かれており、作曲着手当初はシンフォニエッタのナンバーとして企画されなかった可能性もある。
 標題のラビュリントスとはギリシャ神話におけるクレタ島の迷宮であり、本曲はそこで起こったミノタウロスの退治譚を叙事的に描いたものである。3つの楽章は必ずしも時系列によらず、それぞれ、I. Theseus(テセウス) II. Ariadne(アリアドネ) III. Minotauros(ミノタウロス)という神話に登場する3人の名を冠している。神話では、クレタ島のミノス王の妻パシパエは牡牛と交わり牛頭人身の怪物ミノタウロスを生む。ミノス王は乱暴なミノタウロスを名匠ダイダロスの手による迷宮(ラビュリントス)に閉じ込め、戦敗国であるアテナイから少年少女の生贄を送らせてミノタウロスに与えた。一方、多くの悪人を退治したアテナイの王子テセウスは、ミノタウロスをも退治すべく生贄の少年らのうちに交じってクレタ島を訪れる。ミノス王の子でありミノタウロスの異父妹にあたるアリアドネはテセウスを見て恋に落ち、無事に脱出した暁にはアテナイに連れ帰るという約束でテセウスに迷宮脱出のための秘策である糸玉を与える。迷宮に入ったテセウスはミノタウロスを殺して脱出し、アリアドネと共にクレタ島を抜け出す。しかし道中のナクソス島でアリアドネは置き去りにされ、アテナイに帰ったテセウスは王位に就いた後にアリアドネの妹を娶るのであった。
 第1楽章テセウスは他のシンフォニエッタシリーズの作品と同様ソナタ形式に類似した形式であり、2つの主題と展開部、リピートによる主題の忠実な再現からなる。明快なテーマと楽想は英雄に相応しいものである。第2楽章アリアドネはロンド形式で、細やかな和声と音階が繊細なテーマを作り出している。楽章の最後にはテセウスのテーマが現われるが、それは遠ざかるように消え入ってしまう。第3楽章ミノタウロスは複雑なリズムの野趣に溢れたテーマを有する。途中現われたテセウスのテーマと戦うようにあらぶった後、ミノタウロスのテーマは勢いを弱め、最後には勝利に喜ぶようにはっきりとテセウスのテーマが歌われて曲が終わる。全曲を通じて各所に配置されている増和音は、テセウスが神託により携えた品物を表している。
 曲は時系列でなく各人の視点で描かれており、英雄となったテセウス、家族を裏切ってまで愛に生きたが最後には捨てられたアリアドネ、生まれたときから忌み嫌われ怪物として殺されたミノタウロスという三者三様の運命を反映して後の楽章ほど混沌の度合いを深めていく。しかし全く明快さが異なるテセウスのテーマとミノタウロスのテーマは実は短2度下降→短2度上昇というモチーフを共有しており、両者が本質的には異ならないことが示唆されている。生贄を得るミノタウロスと悪人退治の名の下に次々と人を殺していくテセウスは区別できるのか、本曲には善悪という価値観の危うさをも透かして見ることができよう。

参考文献:日本の作曲家―近現代音楽人名事典(日外アソシエーツ, 2008)、マンドリンオーケストラコンコルディア第26回定期演奏会パンフレット
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2013年06月19日

ツプフオーケストラのためのソナチネ第1番

ツプフオーケストラのためのソナチネ第1番
Sonatine Nr. 1 für Zupforcherster
ヘルベルト バウマン
Herbert Baumann (1925.7.31 Berlin ~ )

 作者はドイツの作曲家で、ベルリンの国際音楽学校で学び、作曲をPaul HöfferとBoris Blacherに、指揮をSergiu Celibidacheに師事した。1947年から1979年までドイツ各地の劇場で音楽監督を務め、500以上の劇場音楽とおよそ40のテレビ映画音楽を作曲した。1979年以降はフリーランスの作曲家として活躍している。マンドリン音楽のためには、ギター協奏曲を初演するなど親交のあったギタリストS. Behrendの呼びかけで1962年にSaarlandiche Zupfmusik(ザールランドの撥弦音楽)を作曲、それ以降もマンドリンとギターのためのSonata Capricciosa(後にマンドリン協奏曲Concerto Capricciosoに編曲)、ツプフオーケストラのためのSequenzen、ギターとツプフオーケストラの協奏曲「鳥、果実、そして風」など継続的に作品を提供している。Baumannの音楽は限定的な和声進行の中にオルゲルプンクト、オスティナート、同型反復やゼクエンツ(Sequenzenなどはそれが作品のタイトルにまで現れている)などの現れる繰り返しが重視されており、要素が繰り返されるほどにテンションが高まるのが特徴であり特長である。
 本曲は、1960年代に作曲されたとみられる、作者のマンドリン音楽のための作品としては比較的初期のものである。Zupforchesterとはドイツ語で撥弦オーケストラという意味で、ドイツにおけるマンドリン合奏の形態である。通常マンドロンチェロを含まない5パートの編成により、本曲もその編成をとっているが、本日はマンドロンチェロとマンドローネを付け加えて演奏する。作者のマンドリン合奏のための作品では、特に初期の作品においてマンドリンのトレモロ奏法が全く使われておらず(後期の作品でも、トレモロと単打の使用箇所ははっきりと分かれており、混在しないものが多い)、本曲も全て単打にて演奏される。これはHermann Ambrosiusの影響以降のドイツのマンドリン音楽では必ずしも特殊なことではないが、前述のBaumannの音楽性と撥弦楽器の単打の響きとの相性はとても良いと言える。
 本日の第1部では近代的な書法による3楽章のソナタを2曲演奏する。それらの作風の違いをもお楽しみいただければ幸いである。本曲は第1楽章が展開部の無いソナタ形式、第2楽章が複合三部形式、第3楽章がロンド形式によるソナチネ(小規模なソナタ)である。第1楽章Allegroはホ短調の第1主題と提示がロ短調-ニ短調で再現がホ短調の第2主題からなるが、両主題は短3度(Baumannの曲で重要な役割を示すことが多い)下降の動機を共有している。両者はリズムによって区別されるが、この2つの主題の関連性によって展開部が無いソナタ形式に楽式上の充足感がもたらされている。第2楽章Andante, poco mossoはハ長調で、A(a-b-a)-B(c-d-c’)-A’(a’-b-a)の構成による。主部A内では付点のリズム、中間部B内では三連符のリズムが楽想を支配しているが、再現のa’では両者が縦に重ねられた形で再現が行われる。またa,dがバスの下降の順次進行、b,cがオルゲルプンクトという2つの要素を有しており、それが交互に現れるのが隠しテーマとなっている。第3楽章Allegro assaiは再びホ短調で、ヘミオラの多用や二連符と三連符の交錯などの複雑なリズムを有しながら快速に駆け抜けるロンドである。ロンド主題は短3度下降の動機を有しており、第1楽章との関連性をもたされている。


参考文献:Wikipedia − Die freie Enzyklopädie (ウィキペディア ドイツ語版) http://de.wikipedia.org/wiki/Herbert_Baumann_(Komponist) 、Polyeder für Zupforcherster スコアの作曲者プロフィール(Verlag Vogt & Fritz)
posted by コンコルディア at 19:48| Comment(0) | 過去の定演曲目解説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする