2011年06月15日

序曲「サウル王の悲劇」、牧歌的組曲「田園への旅」

序曲「サウル王の悲劇」
“Saul” Ouverture d’introduzione alla Tragedia Saul, op. 30 (1874)
牧歌的組曲「田園への旅」
Gita Campestre, Suite Idilliaca
ジョヴァンニ ボルツォーニ 作曲 石村隆行 編曲
Giovanni Bolzoni (1841.5.15 Parma 〜1919.2.21 Turin) / Rid. Takayuki Ishimura 

 作曲者はイタリアの指揮者、教師、作曲家。パルマの音楽学校にてG. del Mainoにヴァイオリンを、Griffiniに声楽を、G. Rossiに作曲を学んだ。1859年に卒業した後は各地の劇場指揮者、音楽学校の校長などを歴任した。トリノの音楽高等学校では校長および作曲科の教授を務め、器楽科の設置などを行って厳格なオペラ重視の伝統の見直しを行った。作曲家としては数曲のオペラも残しているものの、主要作品は室内楽曲と管弦楽曲であり、オペラ優勢の時代にあって一線を画している。特性的な小品や叙事的な序曲などを好んで作曲し、本日演奏する「サウル」を含む5つの序曲や弦楽四重奏のためのromanza senza paroleなどが代表作である。
 本日演奏する2曲はいずれも京都在住のマンドリニスト・音楽研究家の石村隆行氏による編曲である。主宰・指揮者を務めるESTUDIANTINA PHILODOLINO di KYOTOおよび技術顧問を務める同志社大学マンドリンクラブなどでイタリアロマン派の音楽を中心とした作品を多数編曲して発表しており、その中には本日演奏する他にもボルツォーニの作品が複数含まれる。

 序曲「サウル王の悲劇」はボルツォーニがF. Morlacchi劇場の指揮者をしていたころに作曲した管弦楽のための序曲である。
 サウルとは旧約聖書のサムエル記に登場するイスラエル最初の王である。サウルは神に選ばれて王となるが、アマレク人との戦いにおいて「アマレク人とその属するものを一切滅ぼせ」という神の意志に従わなかったために神から見放されてしまう。サウルに替わって神の加護を受けたのは竪琴の名手であるダビデであった。サウルは初めダビデの竪琴によって癒されるが、ダビデが戦闘で成果を挙げるにつれ妬みを抱くようになり、何度もダビデを殺そうとする。そしてサウルは神の導きを得ることなく戦いのうちに死を迎え、その後を継いでダビデがイスラエルの王となる。
 曲は下降解決の倚音を特徴とする緩徐な序奏に始まる。この倚音はAllegro agitatoの激しい第1の主題に引き継がれるが、この主題は現れるたびに形を変える。一方やや穏やかな第2の主題は変化が少なく、常に同じ調で現れる。カデンツァを挟んだ緩徐な中間部では竪琴の音楽が強調されるが、ここでも第2の主題が優勢である。中間部が終わって、序奏の旋律は再現されるものの、第1の主題は明確に原型で再現されることが無いまま曲が閉じられる。
 複数の主題を有するものの、楽式はソナタ形式には依らず、主題間の対比に焦点のあるつくりとなっている。竪琴と関連付けられた第2の主題がダビデを表すとすると、泰然としたダビデに対して現れるたびに形を変える第1の主題は運命に翻弄されて迷走するサウルのように見える。

 牧歌的組曲「田園への旅」は次の4楽章からなる組曲である。
I. 行進 In marcia, Tempo di marcia, moderato 2/4, ヘ長調
II. 抱擁とくちづけ Carezze e baci, Andantino elegante 3/4, 変ロ長調
III. やさしき対話 Gentile colloquio (Duettino), Adagio 3/4, ハ長調
IV. 幻想的な踊り Danza fantasiosa, Allegro vivace 3/4, ト短調-変ロ長調
 いずれも三部形式に依る。第1楽章は導入部的な役割の軽さのある行進曲風の音楽である。第2、第3楽章はいずれも緩徐楽章であるが、特に第3楽章ではバスの保続音上に歌われるマンドリンとリュートモデルノ(5コース弦のマンドロンチェロ)独奏の2重奏が美しい。第4楽章は情熱的な舞曲で、中間部では第2楽章の旋律が回想されるとともに第3楽章の主題が対位法的に演奏される。

参考文献:The New Grove Dictionary of Music and Musicians, Second Edition, (Grove, 2001)
posted by コンコルディア at 21:06| Comment(0) | 過去の定演曲目解説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする